邪馬台国と黄泉の森: 醍醐真司の博覧推理ファイル (新潮文庫) 長崎尚志
昨日は台風休みをいただき、おかげさまで久々に推理小説を読む時間が取れました。
こんなのいつぶり?
作者の長崎尚志(ながさきたかし、と読む)さんは、マスターキートンの原作者として存じ上げておりました。浦沢直樹の作品では私、一番好きです。
あのときは勝鹿北星名義だったんで、漫画編集者だってことも、長崎尚志って名前もずっと最近になって知ったんですが、小説も書いてるとは知らず。
あとテーマが邪馬台国論争だったので、私が福岡県出身で、邪馬台国論争に興味があったこともあり、期待に胸を膨らませ、読みました。
著名な推理小説家は「邪馬台国」の所在地をテーマにした小説を書いていることが結構多いです。さすが。マスターキートンでケンブリッジ出の考古学者を主人公にしただけに、長崎さんは邪馬台国論争にも一家言ありますね~~。
ネタバレはルール違反なので邪馬台国論争についてはこれ以上書きませんが、この本のもう一つのテーマで骨子になるホラー漫画家の幼年期のエピソード(「黄泉」にまつわる部分)はひどく悲しい話でした。
この本の見所は多いです。
著者お得意のプロレスうんちくや映画うんちくもちりばめられ、そこだけ飛ばし読みしても面白いくらい。
物語の主人公醍醐はフリーの漫画編集者という設定、つまり著者の分身ですが、彼が作中で様々な漫画論を語っています。それが長崎さんの漫画についての持論なんだろなとそこも面白く拝見しました。
私が本書で一番心引かれた部分について書きますと、
現実世界では、人の一生には様々な悩みが降りかかるのだけど、即座に答えを出せないような悩みにぶつかったとき、主人公の醍醐は漫画の主人公なら、この悩みにどんな答えを出すだろう?と考えてみるらしいです。
例えば作中で、ある女流漫画家に向かって、『同情の余地のある犯罪者を敢えて告発すべきか』という命題を抱え、悩みきった醍醐が問いかけます。
その問いに対して、女流漫画家が答える。
なんと答えたかは読んでのお楽しみなのでやっぱり書きませんが。
醍醐は、その女流漫画家を内心でくそみそにけなすし、お世辞にも好きじゃない・・・むしろ嫌っているし、軽蔑もしている。
でも漫画家のアーティストの直感とか、そういうものを持ってる人間として、どこか信じてるらしいんです。
頭の回転が抜群で知識も豊富、漫画家より何十倍もIQも学歴も高い編集者の醍醐が、好き嫌いで言うと嫌っている相手でも、漫画家という存在は自分とは違う種類の知恵の持ち主だと、どこかで尊敬し、頼る心を持っている不思議。
作中には他にも色んなエピソードがあるんですが・・・「まだ天国じゃないの?」エピソードとか・・・、しかし数あるエピソードの中で私が今回一番印象に残ったのは、このエピソードでした。
あと、著者のファンには嬉しいことに、過去の作品、『イリヤッド』(漫画:魚戸おさむ)(主人公は考古学者)に出てきた、デブで非力で美食家で博識な教養人、お母さんが言うような男にはきっとなれないけど、大人にははやくなりたいというユニークな男の子とその両親に似たキャラクターがこの醍醐シリーズでも登場して、あー・・・この親子の造詣、長崎さんの身近にモデルがいるんじゃないかなぁ・・・と、楽しく思いました。
これからの亜蘭くんの活躍に期待。
(おわり)
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